宅建過去問をわかりやすく詳しく解説-民法177条物権変動

宅建の民法の過去問を解説してみたいと思います。問題は2010年に出題された、問4です。177条の物権変動に関する問題ですが、宅建の物権変動を勉強する上で非常に重要な箇所が出題されている問題になります。

それでは問題文から始めます。

2010年問4の問題文

AがBから甲土地を購入したところ、甲土地の所有者を名のるCがAに対して連絡してきた。この場合における次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

解説

この問題文を読んだ時点では、具体的にどういう問題かは見えてきませんよね。ただ、一つ言えるのは、甲土地には所有権を主張する者が2名いるらしいということ。民法177条に関係がありそう、よって物権変動対抗要件の問題かな?とは推察できます。

問題文を図にする

あくまでまだ推察レベルですが、この問題はこういった状況だとイメージできれば良いと思います。

問題は「民法の規定及び判例」を踏まえて正しい肢を選ぶというものです。

肢の検討

それでは肢の一つひとつを検討してどれが正しいことを言っている肢なのかを見てみましょう。

肢1

CもBから甲土地を購入しており、その売買契約書の日付とBA間の売買契約書の日付が同じである場合、登記がなくても、契約締結時の時間が早い方が所有権を主張することができる。

肢1では、CもBから売買契約にて甲土地を購入した者とあります。しかも、契約書によれば同じ日にちということですが、典型的な二重譲渡の場面ですね。下の図のような場面です。

 

二重譲渡のイメージ図

二重譲渡ですが、双方の譲受人(この場合はC及びA)は譲渡人(この場合はB)を起点とした対抗関係になります。こうなるともろに177条の場面で登記を備えない者は対抗できません。よって、契約締結の時間が早かろうが関係なく、登記を備えた者が勝つのです。

よって記述は誤り。

肢2

甲土地はCからB、BからAと売却されており、CB間の売買契約がBの強迫により締結されたことを理由として取り消され場合には、BA間の売買契約締結の時期にかかわらず、Cは登記がなくてもAに対して所有権を主張することができる。

甲土地はCからB、BからAと流れてきたのですが、CB間はBの強迫(96条1項)によるものだったと。同じ条文の詐欺は96条3項で第三者保護規定が置かれていますが、強迫の場合は表意者保護(意思主義)の要請が強く、96条3項は適用除外とされています(判例)。

よって、この肢2の場合は96条3項ではなく121条の取消しの遡及効により、BC間取引すらなかったことになりその後のBA間取引もしかり、というの肢2の記述です。

強迫取消しのイメージ


しかし、121条は、強迫取消し前についての規定です。強迫取消し後については、177条の場面になるのです(詳細は「復帰的物権変動」で)。肢2には「BA間の売買契約締結の時期にかかわらず」とあり、売買契約が取消しの前後で結論が変わる以上、「かかわらず」は正しくないのです。

強迫取消しについて


肢2は誤りです。

肢3

Cが時効により甲土地の所有権を取得した旨主張している場合、取得時効の進行中にBA間で売買契約及び所有権移転登記がなされ、その後に時効が完成しているときには、Cは登記がなくてもAに対して所有権を主張することができる。

肢3はいわゆる「取得時効と登記」という重要論点の中の「時効完成前の第三者」という論点ですが、取得時効が登記の有無を要件にしていないのに対して177条は登記が要件になっており、不動産の取得時効はどうすればいいの?というところから出た論点です。

民法に慣れていないとかなりわかりづらいシチュエーションだと思いますが、要はこういうことです。

もともと甲土地はB所有でした。それをCが何らかの理由で占有し住宅を立てて住みついたとします。この間、甲土地の取得時効(162条)が進行しているわけですが、その進行中にBはAに甲土地を売却しました。そして、時は過ぎついに取得時効が完成し甲土地はCが所有者になったということ。そしたら何だか知らないAというヤツが所有者になっているぞ、だからAに「所有者は俺だ!」と連絡してくる…(← 今ここ)

肢3の状況を図にしたもの


この場合、登記の有無は時効完成前の譲受人が177条で言うところの「第三者」に当てはまるかどうかがポイントになってきます。

肢3では時効進行中のBA間取引ですので、177条で言う「物権変動」には当たらない、つまり、登記は必要ないと考えるのです。時効進行中に所有者が変わっただけでそれ以上のことはない、と。だから、取得時効完成時の甲土地の所有者はAであって、Aから甲土地を取得すると考えます。

ですから、肢3の場面は177条ではなく162条の場面、つまり、登記は必要なしと考えるのです。

取得時効前の第三者イメージ図

よって肢3は正しい記述です。

補足:取得時効後の第三者

補足ですが、では、取得時効後に出現した第三者はどうすればいいのか。勘のいい方ならお分かりだと思いますが、この場合は177条の場面と考え、登記が必要になります。

この問題とは関係ありませんが、こういうところもフォローしておくと良いと思います。

肢4

Cは債権者の追及を逃れるために売買契約の実態はないのに登記だけBに移し、Bがそれを乗じてAとの間に売買契約を締結した場合には、CB間の売買契約が存在しない以上、Aは所有権を主張することができない。

この肢4をわかりやすく解説するために、CとBは父子、Aは第三者としましょう。

CB間に取引実態がないにもかかわらず、父Cが債権回収を免れるために自身の財産である甲土地を子B所有に偽装したとしましょう。事を知らなかったBは偶然に甲土地が自分名義になっていることを知り、だったら他人に売っちゃえということで第三者であるAに甲土地を売却しました。その後、自分の甲土地を売却しちゃったことを知り、慌ててAに連絡を取るC…ということですね。

甲土地の偽装譲渡と第三者への売却

このような場面は「94条2項類推適用」という理論で処理することになります。別名「権利外観法理」と言いますが、詳しくはリンク先のサイト内ページにてご確認ください。詳しく解説しています。


肢4では、「そもそもCB間は偽装譲渡で甲土地の所有者はBではなく自分CなのだからAさんあなたは甲土地の所有者にはなれませんよ?」という記述ですが本当にそうなのでしょうか。

94条2項類推適用についてはリンク先に解説していますのでここでは割愛しますが、甲土地がA所有になってしまう場合もあります。それはAがCB間の偽装譲渡について知らなかった場合、つまり善意であればCは甲土地の所有権は主張できません。肢4ではCB間は偽装譲渡である以上Aが所有者になることはないと言い切っていますが、Aが善意であればそうではなくなるのです。

94条2項類推適用

よって肢4は誤り。

正解とまとめ

というわけで正しい記述がなされているのは肢3であり、正解は3ということになります。

問題文の通り、規定と判例の問題でした。具体的には177条とその判例知識を問われる問題ですね。もっとも、177条の判例知識にとどまらず、対抗要件全般の話ですので幅広い関連知識が必要でした。

そういうこともあってか宅建の民法としては難しい部類なのかなと思いますが、民法的には177条の関連重要知識&判例の問題なので、是非マスターしておいてほしい問題ではあります。

あと、この問題では「他人物売買」「復帰的物権変動」「時効と登記」「94条2項類推適用」にまつわる問題でしたが、この177条の論点は他にも「解除と登記」「相続と登記」なる重要論点があります。どれも非常に重要論点ですので、まだの方はこれを機にしっかり確認しておくと良いと思います。